遙かな尾瀬                       
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「夏がくれば思い出す・・・・」 、この歌を聞いて尾瀬へ行ってみたいと
思ったのはいつ頃だったのだろうか。それから、年月が経過し?、実際
に行ったのは20歳の9月の終わり頃だった。前期試験も終わり、10月
からの後期授業が始まるまでに時間的余裕ができたときであった。この
ときでも、黙っていても目的地までつれていってくれるツアーハイキング
があったのだろうが、そういうのには参加する気がなく(いまでもその気
持ちは変わらない)、尾瀬のハイキングガイドブックを購入した。

 それによると尾瀬沼で一番、古く由緒あるのが長蔵小屋、沼田から大
清水までバスで約2時間かかるということ、林道建設が進んでいること
などを知る。そしてとりあえず、ガイドに従い長蔵小屋に往復はがきで
予約をする。
(この当時は山小屋なので実際、予約をしなくても大丈夫であった。)
また条件にお米持参ともなっていた。確かに小屋での受付でお米を出
すと、大きな米びつにすぐに移し替えていた。

 そして、前期試験も終わって少しのんびりした9月後半のある日。登
校する学生とすれ違いながら(当時は学校の近くのアパートに住んで
いた)駅へ行き、上野から沼田まで向かう。沼田から直通バスにのり、
大清水に着いたのは、お昼過ぎ頃の記憶がある。
(もう30年以上も前のこと)

 大清水の休憩所で身支度をした後、工事中の林道を通りながら、一ノ
瀬休憩所へ向かう。紅葉し始めた山々が赤、黄、緑とまだらに模様を描
きとてもきれい。いまは、紅葉をみてもただ、「いい色をしているな」と思
うだけ。そして、これはどこかで見た景色と思うだけ。心からの感動がな
い。初めて見た物に対して、心から感動することが若さなのだろう。また、
今のように中高年が主で無く周りはほとんど20代の人ばかり。(この人
たちが今の中高年登山、ハイキ
ングブームを支えているのだろう)

 一ノ瀬休憩所からは三平峠へ向かう山道になる。この頃はまだ、木道
が整備されていなく、普通の山道であった。 木道の方が確かに歩きやす
いが土の道に比べるとふくらはぎが疲れるような気がする。そして峠を下っ
て行くうちに、木々の間から見え隠れする尾瀬沼。青く見える水と周りの
山々の紅葉。これほどのすばらしい景色があるのかと思ったことを今でも、
思い出すことができる。そして沼の向こうには燧ヶ岳が穏やかにそびえて
いる。今回は予定してないがいつか登ろうと心に決める。沼の縁を歩いて
行くと長蔵小屋にやがて到着。夜間照明用のディーゼル発電機の低い音
がしている。受付と言うかチェックインをすませ、明日のお昼予約と部屋を
確認した後、周りを歩いてみる。

 少し沼山峠の方に歩いて見る。夕暮れ時、秋の柔らかい光が大江湿原
を包んでいく。湿原はナナカマドが色づき始めたころ。川にはイワナか、ヤ
マメかわからないが、とにかく小魚がたくさん泳いでいる。のんびりとしてい
つまでも、そのままでいたくなるような夕暮れ。

 夕食のおかずには、先ほどの川で泳いでいたような魚の甘露煮と、もう
一品おかずがあった記憶がある。味はひどかったと思うが、若さ故、質よ
り量の時代、たくさんあれば良かったのだ。風呂があったかどうかは、まっ
たく覚えていない、たぶん無かったのだろう。山の夜は早く、そして平地に
比べると気温がだんぜん低い。朝6時には朝食で、早い人はすぐに出発し
ていった。

 次の日の予定は尾瀬ヶ原から富士見下か鳩待峠へ抜けて帰る予定で
あった。歩き始めてみると気温は予想より低く、準備が不足していること
に気づく。沼尻に着いた時点でこれ以上の行動は気が進まず引き返すこ
とにした。この頃はまだ、遊覧船というか、定期に輸送船が運航されてい
た。長蔵小屋の運営である。三平下の南岸と長蔵小屋、そしてナデックボ
下の沼尻休憩所を結んでいた。船に乗れば、すぐ三平下につく。一度、通
った道なので帰りは簡単。景色を覚えているので、自分がどのくらいの位
置にいるかすぐわかる。大清水から千葉県野田市のアパートについたの
は夕方前であった。

 檜枝岐村につながる林道建設工事反対で尾瀬の自然保護運動が高ま
り、船の運行は次の年には中止となり、長蔵小屋の若主人長靖さんが吹
雪の三平峠で力尽き倒れた。それから30年以上すぎ、尾瀬は自然保護
運動の原点ともなり、汗を流して一歩一歩、峠を登る日本中の人たちの心
身の安らぎの場となっています。

 私自身も、それから尾瀬に10数回行きました。最初の頃は沼田駅で同
行者を見つけ、タクシーで入山口まで行き、夜の間に峠を越え、尾瀬ヶ原、
尾瀬沼で夜明けを迎え、山に登ったり、夜行日帰りで尾瀬沼−尾瀬ヶ原を
回ったのです。とにかく体力があって、標準歩行時間の半分ですべて行動
でき疲れ知らずのころの話。今は標準歩行時間より、若干早いペースまで
体力は落ちています。行っていないところに行こうとするより、気に入ったな
ら、何度でも訪れるのが好き
 

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